未成年お断り
「俺の酒が飲めねえってのか〜」
「いや…俺一応未成年だし」
大佐に呼ばれてきたはいいが、執務室へ赴く途中で彼女にふられて自棄酒を呑んでいたハボックに捕まってしまった。
エドが来るまで捕まっていたフェリー曹長などは何時の間にか逃げ出していた。
大体軍人が昼間から、しかも職場で酔っ払っていいのだろうか。
「なあ、少尉。身体に悪いからもう止めときなって」
「エド…お前、チビで生意気なガキだと思っていたが優しい奴だなぁ」
いつもなら怒る所だが酔っ払いに怒っても虚しいだけである。
(俺も大人になったよな…)
「俺にはお前だけだあ!!」
ガバリと抱きついてくるハボックの背を溜息をつきつつ撫でてやった。
(大佐…怒ってるかな)
しばらくそうしているとオフィスの扉がノックもなしに開かれた。
ホークアイ中尉が助け舟を出しに来てくれたのかと思いホッとしたのだが……
「ほお。こちらにいたのか、鋼の。私は直接執務室へ来るようにと言ったはずだが…あぁそうか。
小さすぎて入ってきたのに私が気付かなかったのかな。すまないことをしたね」
「〜っ!!!」
エドを探しに来たらしいロイはハボックに抱き付かれたままのエドに満面の笑顔でこうのたまった。
「俺だって好きで少尉にからま…」
「エドぉ!浮気する気か!?」
ハボックから離れようとすると縋るように引き戻されてしまった。
「少尉!いいかげんに…?!」
さすがにキレたエドの怒声は途中で飲み込まれた。ハボックに唇によって。
(うわっ!酒くせえっ)
口中に広がるアルコールの匂いに咽る。
鼻にツンときて涙まで溢れてきた。
必死で押し返すが、ハボックはエドの意外な唇の柔らかさが気に入ったのか離そうとしない。
ロイの顔は見えないがこの喜劇を唖然と見ているのか、それとも面白がっているのか動く気配がしない。
エドは急に虚しくなって身体から力が抜ける。
それをいいことにハボックが舌を滑り込ませようとした。
ハッと我に返ったエドの拳とロイが指を鳴らしたのはほぼ同時。
宙を舞うハボックを(一応手加減されているらしい)ロイの焔が包み込み無残に床に転がった。
「……くそっ!俺ごとやるつもりだったな?!」
「さて…どうかな」
焔はハボックに向けられていたとは言え、もしエドが殴り飛ばしていなかったら確実にエドも…ああなっていた。
床で煙を上げて転がるハボックに目を遣りザッと青ざめた。
「立ち給え、エドワード・エルリック」
突然いらついたようなロイの声にビクリとして勢い良く立ちあがる。
途端に眩暈がしてよろけるとロイの腕にしっかりと支えられた。
「どうした?」
ロイの声が幾分和らいだ気がする。
「うるせー…」
何とも情けない声しか出せなかった。
頭がぼんやりしてきて身体が変な熱を帯びる。
これはまさか……
「酔ったのかね?」
「うっ…」
いくら酒には免疫がないとはいえ、酔っ払いにキスされたくらいでこんなになるとは。
恥ずかしくて顔を隠すようにロイの胸に押しつけると頭上から呆れたようなため息が聞こえた。
「やっぱりただの子供だ」
その呟きにエドは胸が締めつけられた。
錬金術でもどうしようもない二人の距離。
エドは子供でロイは大人という現実。
それに焦りを感じているのはきっと自分だけなのだという淋しさ。
「もう帰る」
やり切れなくなってぽつりと零す。
「用事はまだ済んでいないよ」
「こんな状態じゃ仕事の話なんてできねえよ」
「そうだな…だが酔いくらい冷ましていけ」
(自分が今どんな顔をしているかなんて自覚していないのだろうな)
上気した頬に潤んだ瞳。
いつにない艶を帯びたなやましげな表情は欲目で見ても可愛い。
「んじゃ、お言葉に甘えてここでしばらく」
エドが言い終わる前にロイはエドを担ぎ上げていた。
「た、大佐?!」
「執務室に酔い冷ましがある」
ソファに下ろされると一気に力が抜けた。
ロイに抱えられて身近に彼の匂いを感じてさらに酔いが回ってしまったのかもしれない。
さっきより身体が熱い。
仰向けになって襟元を緩めて一息つく。
「身体が小さいから酔いが回るのも早いのかもしれんな」
「んだとぉ」
挑発に乗って身体を起したら頭がクラクラしてまたソファに逆戻り。
額を押えて、あーとかうーとか唸っている内にロイが薬と水を持ってきた。
「呑めるか?」
「むー…ちょっと待って」
深く息を吐いて落ちつけのろのろとコップに手を伸ばしたがその手は虚しく宙を切った。
「??」
不審に思って閉じていた瞼を持ち上げるとボヤけるくらい近くにロイの顔がある。
『大佐っ!』
抗議の為に開いた口は逆に捕らえられてしまった。
流れてくる生温かい水と苦い薬の味に眉を顰める。
エドが喉を鳴らして呑み込んだのを確認して、ロイは名残惜しそうにチュッと音を立てて唇を離した。
「ムカつくな」
「あぁ?!」
「他の男がこの唇に触れていたなど」
スッと手袋を外した指で唇を撫でられて身体が甘い刺激に震えた。
溺れてはいけないと無け無しの理性が叫ぶ。
口移しで薬を呑ませたのも、こんなふうに言ってみせるのもロイにとってはただの戯れなのだろう。
悔しい
悔しい
気がつくとロイの唇に噛み付いていた。
ちょっと強くぶつかっただけで柔らかく噛んだ程度だが、ロイを驚かせるのには十分だったらしい。
目を見開いて唖然としたロイの顔を見て「ざまーみろ」と言ってやった。
あんたも人のこと言えないくせに…
その呟きは聞こえなかったかもしれないけれど。
すっとしたせいかエドの意識はそのまま深い所へ沈んでいった。
「子供だと思っていたんだがな…」
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