「…これは期待以上だ」
「当然です」
殺人的なセンスの持ち主であるホークアイ中尉の手に委ねられたエドだったが、
茫然自失の状態で別室へ連れていかれ1時間後に戻ってきた姿はまごうことなき美少女に仕上がっていた。
冷やかしに集まっていた軍人達は言葉を失い喉を鳴らす者もいる。
何時もは無造作に編まれている金髪は丁寧に解かされ、
甘い香りが漂ってきそうな蜂蜜色の髪が動く度にサラリと揺れる。
少年にしては小さな身体も少女として見ればほどよく、鍛えられた筋肉は引き締まった身体の線を描く。
女性特有の丸みが足りないのも遅い成熟として許される範囲だろう。
質素な濃紺のロングドレスが機械鎧の脚と腕を隠し幾分身体の硬さを和らいだ雰囲気に見せてくれる。
元々白かった肌もどう手入れをしたのか透き通るような白さに磨かれていた。
惜しむらくは金色の瞳に何時もの精彩さが欠けている点だが気付く者は一握り。
(兄さん…目が死んでる)
唯一の肉親としての意地かアルは冷静にエドを捉えていた。
「悪夢だ…早く目をさまして賢者の石を探しに行かなきゃ…」
ブツブツそう言いながら頬を叩き始めた。
「兄さん…」
アルは勧めた手前どうすることもできず、同情しかできない。
「鋼の。そんなに叩くとその愛らしい頬が可哀想だ」
「ギャーっ!!」
大佐の言葉で現実を認識したエドが狂ったような悲鳴を上げる。
「大佐…真面目に口説かないで下さい」
ホークアイ中尉は呆れたように溜め息をついた。
「畜生!こんな事やってられっかよ!」
錯乱から怒りへ発展したエドは髪をぐしゃぐしゃにしようと手を伸ばした。
キィィン…
右腕の機械鎧に弾丸が弾かれた音が鳴る。
「私がせっかく手入れをしたのよ?」
銃を片手に冷たく微笑むホークアイ中尉には大総統であっても逆らえないであろう。
エドもまた蛇に睨まれた蛙のごとく固まってしまった。
やはり中尉に任せて正解だったという大佐の呟きを聞き取った者はいない
。
「ホークアイ中尉は臨時の数学教師として行ってもらうことになっている。
鋼のにはホークアイ中尉の妹として転入してもらう。
見た目もまあ…姉妹として問題なかろう」
周囲が大きく頷くのをエドは一睨みするが今の姿では格好がつかない。
「しかしエドワードという名は使えんだろうな。適当に名を変えてくれ」
「…あんたが考えるんじゃないのかよ」
「おや?私がつけてもいいのかね。そうだな…リリィ、アンナ、マグダリン…」
「もういい!あんたの女性遍歴だろ、それ」
周りから大ブーイングが起こるが当人はどこ吹く風である。
「君の大事な人の名を拝借したらよかろう…例えばあの機械鎧技師とか」
「只の幼馴染みだ!つかもしウィンリィにバレてみろ。
ボコボコにされたあげく一生もて遊ばれる…」
エドは見るまに青ざめていった。
サラ
エリザベス
エリシア…
周りの男共が面白半分に名前を挙げていく。
恋人か家族か…当事者をよそに部屋は次第に白熱していく。
「…トリシャ」
騒然とする中、エドは覚悟を決めたようにその名を告げた。