乳歯


「キーラ。ほら、あーん」
「……いらないもん」

キラの好きなプリンを目の前にチラつかせてもキラはプイと横を向く。
「キラ。グラグラして気持ち悪いんでしょ?
あまり放っておくと下から伸びてくる歯が変なとこから出てくるのよ」
ムウの後ろからマリューも心配そうに声をかけた。

キラの乳歯が抜けかけているのである。
数日前から口の中を気にしていたようだが、今朝マリューがぐらつく歯を触っているキラを見掛けた。
ハミガキはマリューがしっかりさせているから虫歯というわけではないだろう。

「キラ。見てみるだけだから」
「…」
反応を示さないキラの顔を両手で挟み込んで目を強引に合わせる。
絶対開けるもんかという強い眼。
キラもこんな顔をするようになったのかと感心すると同時に淋しさを感じる。
柔らかくマシュマロのような頬を優しく引っ張った。
「うにゅ〜?」

…面白い。

押し込めたり伸ばしたりしてもキラは口を開けようとしない。
「頑固だなあ。そういうとこはママそっくり」
「何ですって?」
「ナンデモアリマセン」

「!!!!けんかはめっ!なの!!」

ムウとマリューが喧嘩をし始めると思ったキラは慌てて閉ざしていた口を開いた。
本当に優しい子に育ってくれたものだ。
ムウはすかさずその小さな顎を捕える。
「あぅ」
「あーこれか」
小さな小さな下の前歯が取れかかっていた。
ヒョイと力を入れると乳歯は難無く抜けた。
キラは一瞬何があったか分からないというように目を丸くしていた。
「痛くなかったろ?」
にっこり笑うとキラはポーッとしたままコクンと頷いた。
「キラは強いもの」
マリューは苦笑しながらキラの頭を優しく撫でた。



その後直ぐに抜いた歯を屋根の上に飛ばすキラに目を細める。
暫くは不格好かもしれないがキラは確かに一日一日成長している。

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