先生の葛藤



子供は可愛い。
子供と触れ合える仕事をと選んだ教職に後悔するわけではないが、 理想と現実のギャップに悩む事も多い。




ポカポカ日和。
昼寝にはもってこいの陽気なのは認める。
しかし今は授業中なのだ。
タリアは教室前方の窓際に目を止めて、またかと諦めの溜め息をついた。
居眠りの常習犯・キラである。
すうすうと気持ち良さそうな寝息まで聞こえる。
無防備な寝顔は起こすにしのびない。
いや、むしろ起こしでもしようものなら「鬼」「悪魔」等と非難されよう。


「キラ」

クラスの優等生・アスランが後ろからその小さな背を揺するが、 キラは「ん〜」とむずがっただけで瞼は閉じたままだ。
周囲からは「可愛い」等とクスクス笑い声まで上がる。
このクラス…いや学校全体と言っても過言でない程、皆がキラに甘かった。
結局アスランは仕方ないなと言うように溜め息をついて、 風邪をひかないようにと自分の上着をキラの肩にかけてやる始末である。

(違うでしょ)
タリアは内心、アスランに突っ込んだ。
タリアもキラは可愛い生徒だと思う。
素直で純粋でまさにタリアが理想とする子供そのものだ。
しかし特定の生徒を特別に扱うわけにもいかないし、 甘やかしてばかりではキラの為にもならないだろう。
タリアは意を決してキラを起こしにかかった。

「キラ君。駄目よ、授業中に寝ちゃ」

叱るでもなく、ただ母親が子供を起こすかのような優しい口調であることに タリア自身が気付いていない。
む〜とキラはみじろいだ後、ゆっくり瞼を上げて透き通るように美しい紫の瞳を覗かせた。
ぽやんと焦点の定まらない目がタリアを捉える。

「…ままぁ」

ふにゃと嬉しそうに笑うキラにタリアは完敗した。
こんな笑顔を向けられて一体誰が怒る事ができようか。
しかし、ここで折れてはキラのためには…………。

「先生だよ、キラ」
アスランの冷静な指摘も耳に入らず、タリアは孤独な葛藤を続けていた。



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