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父の仕事の関係で越してきて1週間。
転校先の学校は超お嬢様学校で中流家庭の自分が入れるなんて思ってもみなかったけれど、どうやら理事長の娘に気に入られたらしい。
キラの人柄のおかげで学校にはすぐに友達ができた。
新しい環境でも楽しく…のはずが、今とてつもなく不愉快だった。
原因は…先ほどからお尻を撫でる手。
ー痴漢である。

サラサラの髪、白い肌、華奢な身体付き、キラキラ輝くスミレ色の大きな瞳は完璧に人目を惹き付けていた…が、本人全く自覚なし。

前の学校では満員の電車でも友達がさりげなく守っていてくれたからこれが初体験。
初めは気のせいだと信じたかったが、何も言わないキラに相手は調子に乗ったらしく
…かと言って声を上げたらこの人はどうなるのだろう、などと考えてしまうあたり、前の学校の友達に「お人好し」と言われる所以なのだ。


犯人は分かっていた。
左隣の男子学生は右手に本を持って読んでいるから違う。
ーそう、犯人は右隣のおじさんなのだ。

(も…もう少しで降りるしっ!)
なんて自分を奮い立たせて耐えていたが、男の手がスカートの下に入り込もうとしたことに流石に動揺した。
ビクリと身体が拒否反応を起こして震え、涙が出そうになる。
羞恥心と怒りで顔に熱が集まり、顔を俯かせた。

すると、頭上から溜息とパタンと本を閉じる音がした。
不意に意識はそちらへ向き、左上を見上げると、吸い込まれてしまいそうな翡翠色の穏やかな瞳とぶつかった。
夜色の髪と白く整った顔立ちにも目を奪われる。

乗り込んだ時はまだ眠たくて、隣にどんな人がいたのかなんて知らなかった。
(…綺麗な人)
マジマジと見とれていたら、彼がにっこりと微笑んで鼓動が跳ねた。

次の瞬間、彼は男の腕を捻り上げていた。
「イダダダダッ!!何をするんだっ!」
「へぇ…しらばっくれるの?」
綺麗な笑顔なのに怖い。
青ざめた男は腕を振り払おうとし、それがキラに当たりそうになると彼が庇うようにキラを抱き寄せた。
その隙に人混みをかき分けて男は前へ進んでいった。

しかし、しばらくして前から少年の声がかかる。
「アスランー。捕まえておきましたよ」
俄に騒然とする車内。
「ニコル…いたのか」
呟く声の近さに茫然と抱き込まれていたキラは慌てて離れる。
「あのっ!ありがとうございました!!」
ちゃんとお礼が言いたかったのだが、恥ずかしくて顔が上げられなかった。
彼が口を開きかけた時、ちょうど降りる駅に着き、逃げるように慌てて外へ出た。


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