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イザーク・ジュールは不機嫌極まりなかった。
美しく輝く白銀の髪を靡かせ、美を損なうことのない怒った顔に下級生はあこがれの眼差しを向ける。
当人はそれを当たり前のこととして受け止める。

目指すは一つ下の後輩のクラスである。
しかし、階段を下りていると昇ってきていた級友に捕まった。
腐れ縁のディアッカ・エルスマンはイザークとは対照的に浅黒い肌と金髪の大人びた容貌を持つ。
「怖い顔して何処へ行くんだ」
大体の予想はつくけど、といった顔である。
「アスランの所だっ!」
「何かまた気に入らないことでも…」
「あぁそうだ!奴め、先日の模試で2位に落ちやがった」
「そりゃあ、お前が勝ったってことじゃないのか」
眉をピクリと動かし、不機嫌さを押し込めた冷ややかな瞳で階上から見下ろされると凄味がある。
どうやら彼のプライドを傷付けたらしい…このままでは八つ当たりされかねない。
「とりあえずアスランの所へ行くんだろ」
後輩にはすまないと思いつつもそう提案するとイザークは歩き出した。
暗に付いてこいオーラを出されて大人しく従う。
ホッとしたのも束の間、階段を下りるなり急に身体を反転して睨み付けられた。
「俺は見下ろされるのは嫌いだっ!」
身長差に文句を言われても…よほど機嫌が悪いらしい。
「へいへい」
逆らわない方が良いと判断し、少し後ろを歩くことにした。
しかし、今度は冗談めかした言い方が気に障ったらしく眉尻を上げたが、
標的の後輩が近いせいか見逃してくれたようだ。
『女王様には逆らうべからず。』
長いつき合いの彼が提唱する教訓だ。




「アスラン・ザラはいるか?!」
突然の怒鳴り声に教室は静まりかえる。
呼ばれた当人は読書中でチラリと視線だけ寄越してすぐに本に視線を戻す。
肩を戦慄かせるイザークを見て、ディアッカは後輩達に目で合図を送る。
皆慣れたもので、静かに教室を出て行った。
その間にもズカズカと入り込み、アスランの机にダンッと手をついた。
アスランは溜息をついて本を閉じる。
「何かご用ですか?」
「貴様、模試で順位が落ちただろう」
「あいにくまだ結果は見ていませんよ」
「なら教えてやる。貴様は2位だ」
「おめでとうございます」
棒読みの祝辞…怒るかと後ろから見ていてハラハラしたが、悔しそうに肩を震わせるだけだった。
「…俺は3位だ」
これには無表情だったアスランも少し驚いた顔をした。
「1位は隣の女子校のやつだ」

ラクスだと思った。
彼女はアスランの許婚で…いや、10日前に振られたばかりなので元許婚である。
『運命の人に出会いましたの』
うっとりとしてそう告げられた。だから許婚を解消したいと。
親に決められた仲で良い友人にはなれる気がしたが、 結婚までは考えきれないと思っていた所だったので素直に祝った。
そういえばその時、『いずれ模試で面白いことがおきますよ』と宣言されたのを思い出した。
もともといつも10位以内にはいたラクスのことだから、今回頑張ったのだろう。
しかし、元許婚のことで責められるのはやりきれない。


ところが聞いてみると1位になったのは「キラ・ヤマト」という2年生らしい。
ならば尚更ここまで突っかかってくる理由が分からなかった。
「何故お前が負けるんだ」
「それはその子の方ができたからでしょう」
微妙に噛み合わない会話。

後ろで傍観していたディアッカは可笑しくて堪らなかった。
イザークは自分を負かしたアスランが自分以外の誰かに負けたことが許せなかったのだ。
何かと突っかかるのは彼がアスランを対等に認めている証拠。
そうでなければイザークは見下すだけなのだ。

しかし、それを素直に表せるほどイザークは器用ではない…というかプライドが許さないのだろう。
そして、アスランはそれに気づけるほどイザークに…というより他人に興味を持っていない。
ともすればアスランは自分にさえも興味がなさそうだ。

このまま不毛な会話をさせても意味がないので、イザークをどう退かせようかと思案していると少々高めの声がかかる。
「また痴話げんかですか」
1年のニコルだ。周りが避ける二人のやり取りに堂々と入ってこれるのは彼くらいである。
「でもちょうど良かった。3人が揃っていて。体育祭の打ち合わせで明後日、お隣に行くことになりましたから」
今年はこの4人が外部との交渉の委員になっていた。

アスランは面倒だと思いながらも、あの子に会えるかなと密かに期待していた。


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