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扉をノックし先に促されると、またあの冷たい視線を感じて逃げ出しそうになる。
「遅すぎっ!もう少しで探しに行くところだったんだぞ」
カガリの声に勇気づけられて何とかとどまることが出来た。
「ごめんなさい」
「申し訳ありません。俺が彼女を引き留めてしまったんですよ」
「まあ。アスランと一緒でしたの」
「ナンパしてたんじゃないだろうな」
ディアッカの揶揄には苦笑するだけ。
当たらずとも遠からず…いや図星か。
「さっさと席につけ、アスラン」
苛立ったイザークの声にキラの方が身を固くする。
「あっお茶入れ直しますね」
「手伝うよ」
「いえっ大丈夫だから」
アスランからポットを受け取り、逃げるように給仕室へ行った。


「…嫌われたな、イザーク」
「何のことだ」
「あの子怯えていたじゃないか」
「知るか」
投げやりな言い方ながらも傷ついているのに気付けたのは友人と…目の前で笑みを絶やさないラクスのみ。


お茶を注いでいくキラがイザークの前で止まる。
まだお茶が半分残っていたのだ。
「温かいのに入れ直しましょうか?」
「いい」
「でも…」
「いいと言っているっ!」
少々語尾を荒げてしまい、キラの身体がビクリと震える。
「イザーク」
非難するようなアスランの声にますます不機嫌になる。


駄目だ。泣きそう。

皆がそう思った。
「…すまん…猫舌なんだ」
意外な言葉にディアッカを除く全員が驚く。
ディアッカはと言えば、滅多に聞けない友人の謝罪に耳を疑っていた。
「でもさっきは入れたばかりのお茶を…」
「だから口がヒリヒリして不快だ」
バツが悪そうにそう言う。

無理して飲んでいたのか。

皆が苦笑を隠せない。
イザークは照れたようにむくれてしまう。
ふとその顎に伸びる手に場の空気が固まった。
「大丈夫ですか?口見せてください」
心底心配そうな顔で覗き込むキラ。
まるでキスをせがむような体勢に見ている者は誰も動けなかった。
近すぎる顔にイザークは顔を赤らめて身体を引いていく…と、隣のディアッカにぶつかる。
ハッとしたディアッカはイザークの首に腕を回した。
「だ〜い丈夫だって!君のせいじゃないよ。忘れて口にしたこいつが悪いんだから」
空いた手で銀色の頭を軽く叩くと肘鉄を食らった。

助けてやったのになんて奴だ。

「でもっ」
なおも引かないキラ。
「あっ!こんな奴はともかく、俺も君の入れたお茶が欲しいなぁ〜。さっきから喉が渇いちゃって」
「ぼ、僕も飲みたいです!キラさんのお茶!!」
「…はい」
何とか気が逸れたらしい。
キラはディアッカ達に茶をついで給仕室へ戻る。

イザークの肩から力が抜けた。
「…こんな奴で悪かったな」
イザークにしてみれば精一杯の感謝の言葉にディアッカは苦笑して受け止める。
「それにしても…あんなに無邪気だと心配だなぁ」
これには皆が同意した。
そこがいいんだけど、と密かに思いつつ…キラはここでもアイドルになっていた。


しばらくしてキラは一つのカップを持ってきて、イザークに差し出す。
「アールグレーです。これなら冷めても美味しいですよ」
特別に入れられた紅茶にイザークは思わず笑みを零した。
「すまない」
イザークの機嫌は直ったようだ。
しかし、キラの頬が僅かに赤く染まったことに皆は複雑な心境だった。



一通りの雑事を終えたキラは机の隅でパソコンを広げて、例のプログラミングをして会議が終わるのも待つことにした。
そのタッチの早さに横目で見ていた男達も驚きを隠せない。





完全に日が落ちた頃に会議は終了する。
気付かずパソコンと睨めっこしたままのキラにアスランが声をかける。
「何処が分からないの?」
「ここの所なんだけど」
「あぁ、それなら…」
高レベルの会話に他は入っていけない。
「アスラン。申し訳ありませんが、今日はキラ様を送って差し上げて頂けますか。まだしばらくかかるようですから」
「もちろん構いませんよ」
「えっ!でも悪いです」
「…俺と帰るのは嫌?」
「そんなことはないけど」
「じゃあ送らせて。俺は君と帰れたら嬉しい」
「////お願いします」
「送りオオカミになるなよ、アスラン」
「いやですわ、ディアッカ様たら。オオカミは大昔に絶滅しているではありませんか」
「…」
いつものボケではない。
暗に手を出したら絶滅したオオカミのように、この世から消されると釘を刺しているのである。

(こんな怖い許婚がいるから大丈夫か)
と、納得して皆は学園を出て行った。
しつこいようだが、皆はまだ二人が許婚を解消したことを知らない。





20時前にはプログラミングは完了し、キラはアスランの車で送ってもらう。
「車っていいな〜。僕も免許取りたいよ」
「キラならすぐ取れるさ」
「うん…そうしたら通学も楽だよね」
「…そういえば今までどうしていたの?あれから電車は使ってなかったみたいだけど」
「ストライク…えぇっと今日、ラクスに没収されちゃった自転車で通っていたよ」
「自転車?!」
「そう。お気に入りだったのに」
「…キラ。明日から俺が送り迎えしてあげるよ」
「えぇっ?!いいよっ。また電車使うから」
本当はもう電車には乗りたくないのだが、そこまでしてもらうわけにはいかない。
「電車にはもう乗りたくないんじゃないのかい?」
「うっ」
何故分かるのだろう。
「せめてキラが免許を取るまででどうかな」
「それなら…しばらくお世話になります」
「任せておいて」
「できるだけ早く取るように頑張るね!」
頑張らなくてもいいんだけどという呟きは、意気込むキラには届かない。


明日から楽しくなりそうだ。


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