イザークの母親は忙しい人らしく、来てすぐに出て行かねばならないと言う。
「また夕方来るわね。車にお見舞いの花とお菓子を忘れてきたの。
悪いけどカガリ、一緒に来てくれるかしら」
「はい」
「そんなもの何で忘れてくるんですか…」
「慌ててきたからよ。でもちゃんと気を遣って外で待ってたのよ」
「何故?」
「息子のラブシーンなんてつまらないもの」
「「!!!」」
ショックを受けて固まるキラを引きずって、エザリア・ジュールは去っていった。
残されたイザークは茫然とそれを見送った。
キラは大量の花とお菓子を渡され、腕いっぱいに抱えたまま見送る。
エザリアは車に乗り込む直前にキラの両肩にそっと手を添えた。
「私は忙しくてあまりあの子についていてあげられないからお願いね」
無責任に返事は出来ないので微笑みでかわそうとするが見逃してはくれなかった。
「返事は?」
「……はい」
やっと納得して車に乗り込んだかと思うと、窓から顔を出してキラに耳を貸すようにと手を振る。
「そうそう、あの子キスはうまかったのかしら?」
「!!////そんなこと言えませんっ!」
真っ赤になるキラを愉快そうに見て車は走り出した。
病室へ戻ると笑い声が聞こえた。
ディアッカ達が来ているようだ。
一旦コンタクトをはめに戻り、ノックをして中へ入る。
「おかえり」
一斉に掛けられた声にまた泣きそうになった。
「た…だいま」
「カガリはもう具合は良いのかい?」
「うん…私は大丈夫」
「カガリが倒れた時、イザークを押さえるの大変だったんだぜ」
「そうそう。アスランもびびってましたよね」
「そりゃあ、あんな血塗れで近づかれたら…痛っ」
ニコルがアスランの足を踏んで牽制する。
どうやらキラが気にしないように気を遣ってくれているらしい。
そういえばイザークの母親にも責められなかった。
「アスランが助けてくれたんだってね。ありがとう」
イザークは不機嫌そうに顔を歪めていた。
ラクスと花を花瓶に移すために部屋を出ようとするとイザークから声がかかる。
「半分はお前が持っていけ。母もそのつもりだろう」
「今日お戻りになるのですね」
「はい。…こんな状況で去るのは心苦しいのですが」
「本当にこのままでよろしいんですの?今のイザークなら本当のことをお話ししても大丈夫だと思いますよ」
「イザークが許しても僕が許せないから…」
「貴女はどうしてそんなにお優しいんですの」
「僕は嘘をついている人間を優しいとは思いません」
「いいえ。それでもキラ様は優しいです」
「………カガリが戻ってきたら、フォローをお願いします」
ラクス達が出て行った後、看護婦が包帯を取り替えに来た。
傷の酷さに衝撃を受けているとイザークは落ち着かせるようにキラを抱き寄せる。
「大丈夫」
イザークは何故責めないのだろうか。
ディアッカ達も母親も何故責めないのだろうか。
その分、キラは自分を責めるばかりだった。
夕方、執事が迎えに来たので病室を出る。
「さようなら、イザーク」
「また明日」
これには答えずただ微笑むことしかできなかった。
家に着いて貰った花を生けていると執事が躊躇いがちに話しかけてきた。
「その花は君が持っていけばいい」
「これはカガリのものです」
弱々しく笑顔を作るキラに執事は表情を暗くする。
「…やはりこんなこと止めさせればよかったな」
「いいえ。とても楽しかったから感謝しています。貴方も色々ありがとう」
カツラとコンタクトレンズを外して、キラ・ヤマトとしてステーションへ行った。
見送りなどいるはずもないのに意外な人物がキラを待っていた。
「やはり今日帰るのかい?」
「…どうして僕だと分かったんですか」
「雰囲気と僕の勘さ。特に僕の勘は信用できる。こうして今日君が帰るだろうと分かったのも勘なのだよ」
「嘘は駄目よ、アンディ。昨日から覗きに来ていて、今日も昼からずっとここで見張っていたでしょ」
「バラしちゃいかんな、アイシャ」
アンディの後ろから黒髪の綺麗な女性が現れた。
キラに目をとめてニコリと笑いかけるので、キラもつられて笑い返す。
「アンディが気に入るのが分かったわ」
「う〜ん。正直こんなに可愛いとは思わなかったが。あぁ、いや!カガリ嬢も可愛いがね」
「今まですみませんでした」
「本当に謝りたいのは僕じゃなかろう」
「…今日謝ってきました」
「真実を話してかね?」
キラはただ首を横に振り、目を背けた。
「僕は心配だよ。君は人を傷付けたまま平気で生きていける人間ではない」
「…無かったことにして逃げるつもりはありません」
決意を示すように目を合わせると、アンディは少しホッとしたように表情を和らげる。
「良い目だ」
自宅へ帰ると早速カガリから通信が入った。
『イザークに怪我をさせたと聞いてびっくりしたぞ』
「迷惑かけてごめんね。治療費は僕が何とかするから」
『それは良いらしい。あのおばさんなら絶対に請求してくると思ったけどな』
「そうなんだ…」
『他に変わったことはなかったか?』
「ラクスとアンディにはバレてるよ」
『何とかなるさ。こっちもミリィにはバレてしまった』
「ミリィなら大丈夫だね。カガリは辛いことなかった?」
キラ自身が最後は辛かったのだからカガリもそうだろうと心配したが、カガリは平然と答えた。
『全然!すっげえ楽しかったぜ。やっぱ普通の学校の方が気を遣わなくていいな』
一気に力が抜けてしまった。
『とにかく今回はありがとう。いつかお前が何かしてほしい時は言え』
「……早速で悪いんだけど、イザークにちゃんと挨拶してね。『おっす!』とかじゃなくて」
『分かったよ…』