チェンジ番外編1
「頼みがある!」
黄金色のツムジを見てキラは顔をひきつらせた。
カガリがこんな風に言ってくる時は大抵ろくな事はない。
「また学校…」
「駄目」
カガリの言葉を遮って、作り出した笑顔で一刀両断。
カガリのショックを受けた顔に多少心が痛まないわけではない。
しかし想定していた中でも最悪の頼み事に違いない。
以前もそれで辛い目にあったのだ。
もちろん辛いばかりではなかったのも事実。
優しい銀の輝きを思い出してキラは表情を和らげる。
「イザークもお前に会いたいと思ってるはずだ」
心を読まれたかと思いドキリとする。
カガリには特に聞かれないので言っていないが、あれからイザークとは月に2、3回会っている。
専らイザークの方からキラのプラントへ来てくれる。
キラがイザークのプラントへ行くのを何故かイザークは嫌がった。
イザークは忙しいのに休日には会いに来てくれるし、
会えない時は必ず通信をいれてくれて時には贈り物が届く事もある。
離れていても思いあってるから大丈夫。
でも本当の本当はもっと側に居られたらと思う。
今もイザークとは通信だけで、1ヵ月近く会っていない。
立て続けにある学園行事に追われているらしい。
イザークは生徒会長なのだから抜けるわけにもいかないのだ。
会いたい。とても。
しかしここで承諾してしまえばイザークは怒るだろう。
聞き分けのない子供として呆れて嫌われるかもしれない。
思いが通じ合っているはずなのに不安ばかり。
ミリアリアに言わせればそれが『恋愛』だという。
「今回は一日だけでいいんだ」
「…何を企んでいるの?」
キラが訝しんで問いただすとカガリは視線を彷徨わせる。
「何か嫌な事があるとか?」
「その日は何もない」
「じゃあ、うちで何しようってわけ?」
「!!いや、えと…大人しくしてるぞ?」
前科ありの者の言葉をそうそう信じられるだろうか。
「頼むよ!私にも義理と人情が…っ!!」
カガリはまたガバッと頭を下げてきた。
義理と人情…一体全体何をする気なんだ。
どんなに冷たくあしらおうと努めても、やはりキラには無理なこと。
最後にはカガリに泣きつかれてキラの方が折れるのもいつものことだった。
久しぶりに来るプラントの学校。
おかしな事に『懐かしい』と安堵した。
たった一週間だけ、しかも姿を偽っていたのに帰ってきたような気にさえなる。
なんて厚かましい事だろうと自分で呆れながらも嬉しい気持ちは抑えきれない。
だが、今回の事はイザークに相談できなかった。
(だって絶対怒るもんね)
同じクラスのラクスにはバレてしまうかもしれないが、イザークとは顔を合わせなければ大丈夫だ。
おとなしくしていれば誰も気付かないだろう。
しかし却ってそれがカガリ的に目立つのだという事をキラは失念していた。
目の前を歩く見知った学生にキラは自然と声をかける。
「おはよう、アスラン」
ポンと肩を軽く叩いて横を通りすぎようとするも、急に腕を掴まれてよろめく。
「アスラン?」
「あ、いや…」
アスランも自分が何をしたのか分からないという顔だ。
「変なアスラン」
キラが首を傾げて笑うとアスランは顔を赤らめた。
アスランは不思議だ。
会った当初から『幼馴染み』のような親しみを感じた。
人付き合いが得意ではなく、どちらかと言えば敬遠されるアスランにそう思うのはキラくらいなのだが。
イザークとは違う種類の居心地の良さがキラは気に入っていた。
先を行くキラをアスランは信じられない思いで見つめていた。
「………キラ?」
誰も聞き取ることができないくらい小さな呟きはアスランの中で波紋を広げていた。
確信はない。
しかし、彼女が『カガリ』ではなく『キラ』なのだと感じた。
ラクスの話では、一週間程カガリとキラが入れ替わっていたことがあるという。
おかしいとは思いながらも、まさか入れ替わっているとまでは考えつかなかった。
イザークの入院する病院で一度だけ本当の『キラ』という存在に触れた。
至高のアメジストと可憐な容姿は今でもアスランの脳裏に焼き付いている。
ラクスという婚約者がいながら不謹慎にも惹かれずにはいられなかった。
もし、また二人が入れ替わっているとしたら…
怒りでも呆れでもなく、アスランは嬉しいという気持ちを抑えることはできなかった。
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