チェンジ番外編3
『こら!!』
今までに一度として聞いたことのない後輩の怒声を聞いて、イザークは不覚にも持っていた書類を落としてしまった。
あちゃ〜と額を押さえるディアッカを無視して、外に目を移すとやはり声の主はアスランだったことに改めて驚く。
アスランは中庭でカガリと言い争っていた。
珍しい組み合わせと珍しいアスランの言動に夢を見ているようだった。
外を見たまま動かないイザークにぶつぶつ文句を言いながらディアッカは散らばった書類を集めていく。
全て拾い集めてようやく外に目を向けたディアッカもまた驚いた。
「な〜にやってんだか」
言い争いの末、木に登るアスランと心配そうに見守るカガリ。
二人ともいつもの二人らしくないのだが、妙にしっくりしていていてディアッカは顔を綻ばせる。
予鈴がなると、アスランは慌ててカガリの手を引いて走った。
珍しいものを見たとディアッカが口笛を鳴らす横でイザークの機嫌は急降下していた。
「何であいつがっ…」
低い低い呟きにディアッカは全身が凍ってしまった。
怒り心頭で表情を無くした綺麗な顔が何時にもまして怖い。
イザークがアスランを気に入っていないのは明白だ。
しかし今のイザークの怒りは異常だ。
カガリと一緒なのが気に入らないのだろうか。
仮にも婚約者にと決まりかけた子だ。
(でもお前には『キラ』っていう可愛い彼女がいるんでしょーが)
なんて火に油を注ぐような事は言うべきではないとディアッカは身をもって知っていた。
イザークの機嫌は最悪を極めた。
オーラが漂っているのか、クラスメイトも生徒会もイザークには近寄らなかった。
いつも一緒にいるディアッカに皆の「何とかしろ!」という視線が向けられたが、ディアッカとて自分が可愛い。
まるで影のようにイザークの傍らに潜んでいた。
「イザーク先輩。体育祭についてグラウンドの配置を直接打ち合わせたいのですが」
あのニコルでさえも大人しくしているというのに、全くものともせず話しかける強者にディアッカは拍手を送った。
最近、生徒会に加わったシホである。
明るく優秀でイザークも認めている1年生だ。
さすがのイザークもそれを邪険にするわけにもいかず、少し雰囲気を和らげて了承した。
イザークとシホが生徒会室を出て行って、ディアッカとニコルは同時に息を吐いた。
「全くもう!息が詰まるったら!!」
「あー疲れる〜」
「あのイザークは何なんですか!貴方のせいじゃないでしょうね?!」
いつもは底知れぬ黒さを持つニコルが今回ばかりは可愛く見える。
「違うって。アスランとカガリが一緒にいるのを見てからああなんだよね」
「……噂にはなってましたが、それがイザークと何の関係があるんですか。
大体イザークには大切にしまい込んで僕たちにも会わせてもくれないとびっきり可愛い彼女がいるんでしょ!」
「…の、はずなんだけどね〜」
気疲れして考えるのも面倒くさくなったディアッカとニコルは鬼の居ぬ間に早く帰るべく仕事を片付け始めた。
アスランがいなかったのは幸か不幸か…。
「あ!イザークだ」
放課後、教室でアスランと話をしていたキラはグランドに出たイザークを目敏く見付けた。
嬉しそうに窓にはりつくキラにアスランは悔しさを感じた。
「体育祭が近いからね。配置とか打ち合わせてるんだろ」
「へ〜。何時?」
「再来週の日曜日だよ」
「絶対応援に行くね!」
にっこり笑うキラにげんきんにも嬉しくなった。
しかし、再びグランドに目を移したキラはすぐに顔を曇らせた。
「あの子…誰?」
キラが指差した先にはシホがいた。
シホはイザークの横で熱心に確認しているようだった。
「シホだね。最近生徒会に入ってきた女の子だよ」
「ふ〜ん…」
気のない答えだ。
イザークとシホの関係を疑っているのかもしれない。
アスランにはイザークとシホは兄妹のような関係に見えるのだが、恋人の目にはそう映らないらしい。
「ねえ、キラ。少しだけここで待っていてくれるかな?生徒会に顔だけ出してくるから。
エアポートまで送るよ」
「ううん。いい。生徒会頑張って」
「俺の方は粗方片づいているから大丈夫。それよりもう少しキラといたいんだ」
「…うん。じゃあ待ってる」
元気をなくしてしまったキラには可哀想だが、チャンスかもしれない。
アスランは急いで生徒会室へ向かった。
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