チェンジ番外編4 



急に見捨てられたような気がした。
イザークの隣に親しげに立つ女の子の存在。
キラと同じブラウンの長い髪が揺れ、遠目にも可愛い子だと分かった。
どちらかと言うと女性が苦手というイザークがとても穏やかな表情をしていた。
ミリアリアが聞いたら、キラに向けるものはそれ以上に甘いとつっこんでいただろう。
しかし、未だイザークと付き合っているということに不安を感じているキラには知るよしもない。


イザークは髪の長い子の方が好きなのだろうか。
もうキラに飽きてしまったのだろうか。
彼女がいるからイザークはキラがここに来ることを嫌がったのだろうか。



考えれば考えるほど思い当たるふしがある。
いつもイザークに甘えてばかりで迷惑をかけているに違いない。
こんな自分は飽きられて当然、とまで思い当たってふと背後の気配に気付いた。

いつのまにグラウンドから上がってきたのか、教室の入り口に手をかけて中を窺うイザークの姿があった。
キラは咄嗟に側にあったカーテンで半身を隠す。

「アスランは…」
「生徒会に、行ったはずだが」
喉が詰まりながらもカガリらしさを真似る。
鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほど鳴っている。
バレないかという心配とさっきまで考えていた事のせいだ。

「そうか」

淡泊な声だった。
イザークが何か怒っている時、こんな声を出すなと思い当たった。
それだけで立ち去るかと思えば、気配は近づいてくるのでキラは身を固くした。



「カガリ」
びくりと肩が震えてしまった。
イザークの口から他の女の子の名が出ただけで胸が締め付けられる。

(ああ、だからもうこういうことは嫌だったんだ)

今更自覚しても遅い事だとキラは項垂れる。
大切な親友に対して一瞬でも抱いてしまった醜い感情に激しい自己嫌悪を覚えた。


「キラはどうしている?」
「えと…元気そうだが」
「それは分かる。俺も先日話したからな」
5日前に随分長いこと話をしていたのを思い出す。
専らキラが学校の事とかテレビの事とか面白いと思った事などを話していた。
そしていつもイザークは静かに聞いていてくれる。
一方的すぎてほんのちょっぴり「淋しい」なんて思うのは贅沢だろうか。

「何が聞きたいんだ?」
「キラの考えている事」
漠然としていながら酷く動揺させてくれる。
「女同士のほうが色々話しやすいのではないかと思って」
「イザークに話している事と変わらないよ」
「そうだろうか?キラは俺に対していつも気を遣っているように見える」
「そんなことは…」
「俺は人一倍気難しいらしいからな。キラももう疲れを感じているのではないか」
イザークらしからぬ弱気な声色にキラは驚いた。

「違うっ!」
カーテンをはね除けて、真っ直ぐにイザークを見つめる。
「そんなんじゃないんだ。こんな事言ったら失望させるかなとか、どんな話をしたら喜んでくれるかなとか 考えるのは、ただイザークに嫌われたくなくて…好きでいて欲しくて。
イザークは素敵な人だから、こんな僕では釣り合わないって分かってるけど……傍にいたい。ずっと」
一気に吐き出して自然息が乱れる。
イザークは少し驚いたようにその美しい蒼天の瞳を見開いていた。
そしてようやくキラは自分の失言に気付いた。


「う…あ……忘れて下さいっ!」


真っ赤になった顔を隠すようにカーテンにくるまる。
(うわ〜ん。僕の馬鹿。ばれた?!というか恥ずかしいっ!!!)
高揚したままの感情と一気に流れ込んできた羞恥心にキラは混乱した。

「キラ」
(あぁ、やっぱりばれてるし!)
錯乱状態でイザークの声が先ほどまでとうって変わって穏やかなものに変化したことにキラは気付かない。
「き、気のせいだっ!いや、聞き間違いだ、さっきのは」
「いつまで続ける気だ?俺が気付いていないとでも思ったのか?」
「へ?」
「アスランなどと仲良くなって…むかつく」
「ええ?!」
「お前は俺を見くびっているだろ。もうキラとカガリを間違えるなんて事あるはずない。
遠目にだって…中庭でのお前達を見て俺がどんな気持ちだったと思ってる?」
じわりじわりと距離が縮められて、キラはカーテンにくるまれたままイザークに抱き締められた。
カーテン越しに聞こえる浅い息づかいにドキドキする。
「身体も声も……どんなに上手く偽っていても俺はキラだと分かる。なぜだか分かるか?」
考える余裕もなくキラはただふるふると首を振った。







「キラを愛しているからだ」






ストンと胸に落ちてきた。
求めていた言葉は意外にあっけなく、しかしキラの中にもの凄い早さで染み渡る。
色々な感情が入り乱れていた頭が途端にクリアになった。
その言葉だけしか受け入れないように真っ白になってしまった。
そしてすぐに焼けるような熱をキラに与える。
イザークの声が、言葉が反芻する。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
だけどちょっと照れてしまって、顔を出す事ができなくて。
そうしている内に、イザークがカーテンに手をかけてきたので、
「ちょっと待って」と小さく抵抗した。
イザークがムッとしたような気配がするけど、落ち着くように深呼吸。

ふとイザークの顔が近づいてくる気配がした。
避ける間もなく、カーテン越しにキラの唇をカプリとかみつくように捕らえる。
急な刺激にキラの身体が面白いほど跳ね上がった。


直に触れ合っているわけでもないのに、何でこんなに熱いのか。


溶かされたようにふにゃりと崩れ落ちるキラの身体をイザークはしっかりと抱き留めた。
見上げてくる瞳はマリーゴールド。
その下に埋もれるスミレは間違いなく歓喜の雨に濡れていた。



「僕もイザークを愛してる」



お返しでもなく、自然と出たであろうキラの言葉にイザークは満足した。
始めは怒鳴ってやろうと思っていた。

何故、またこんな無茶をするのか。
何故自分ではなくアスランを頼ったのか。

しかし、実際キラを前にするとそんな事が出来るはずもなかった。
甘すぎる自分が悔しいとも思った。
どうやったって自分はキラには適わないのだ。
あんなに嬉しい告白を聞けて、すっかりチャラになってしまった。
我ながらその単純さが可笑しい。

他人の言動に一喜一憂。
ディアッカに言わせればそれが『恋愛』だという。






今度はちゃんとキスをしようとイザークが顔を近づけるのも構わず(もしかしたら雰囲気に気付いていないのかもしれないが) キラは首を傾げて疑問を口にした。

「でもどうして僕がこっちに来る事を嫌がるの?」
「それは……」




「キラが来てるって?」
「抜け駆けはいけませんよ、アスラン」
バタバタと慌ただしく近づいてくる足音にイザークは眉間に皺をよせる。



「あいつらにお前を会わせるのが嫌だからだ」





ガタンと勢いよく開けられた教室にキラの姿は無かった。
隠すつもりなら容赦しませんよ、とアスランを脅して探しにいくニコル達。
イザークとキラは教卓の下で悪戯っぽく笑い、もう一度唇を合わせた。


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