避難所
「イザーク」
躊躇いがちにそう一言だけかける小さな声。
後は名乗らなくとも分かると思っているのだろう。
実際こいつの声を間違えることはないが、礼儀として厳しくすべきか…今真剣に悩んでいたりする。
一つ溜息をついた後、読んでいた本を閉じて立ちあがる。
ロックを外して扉を開けると、予想通りキラが立っていた。
「何だ」
素っ気無い態度にも関わらず、キラはホッとした表情をする。
「起きててくれて良かった」
「本を読んでいたからな」
「邪魔しちゃってごめんね」
「構わん。それより用件を言え」
「え〜っと…その……」
言いにくいのか視線を泳がせる。
大体の予想はつく。
溜息をつくと、キラはバツが悪そうに答える。
「一緒に寝ていいかな?一人だと怖いことばかり考えるんだ。アスランに昼間、怖い話をされたの。
僕は嫌だって言ったのに、ディアッカとニコルまで面白がっちゃって」
いつものパターンだ。
「とりあえず中に入れ」
呆れながら受け入れてしまうのもいつものパターンだった。
ベッドの端に座らせ、ホットミルクを入れてやる。
「今度は何だ」
「クルーゼ隊長の仮面に隠された目は邪眼だって…」
「くだらん」
「でも!時々なんでそんな事まで知ってるの?!ってくらい小さな事を指摘されるよ」
「それは指揮官として必要な観察力だ」
「僕の3サイズまで当てちゃうんだよ。僕だって知らなかったのに」
「それは…邪眼かもな」
「やっぱり?!」
泣きそうな顔で本気で怖がる。
その姿は可哀想というより、もっといじめたいという気にさせる。
アスラン達がキラの反応を見て楽しむのも分からないでもない。
好きな子に意地悪してしまうというより、アスランとしてはキラに怖がって泣きついて来て欲しいのだろう。
しかし、キラはいつもイザークの所へ逃げてくる。
初めに来た時に理由を聞くと、「だってアスランのところへ行ったらまた怖い話をされそうだもん」と言う。
逆効果になっていることなどアスランに教えてやらないし、教える必要もないだろう。
それはもうきっかけでしかないから。
「だが、その邪眼のおかげで俺達の作戦はいつも評価されているんだ。そう考えたら怖いものでもないだろ」
クルーゼのフォローにはならないが、邪眼ということにしておいても間違いは無かろう。
だが、あまりキラをクルーゼに近づけさせないと心に決める。
「…うん」
「っで、納得したなら一人で寝れるか」
「意地悪…」
「そろそろ別の理由で来てくれても構わんぞ」
「本当に怖かったんだよ!」
「怖くなくなった今は?」
「――っ!一緒に寝たいの!!」
「ほら。それならさっさと布団に入れ」
キラはカップを渡して、ぶすくれながら布団に入る。
「おやすみっ!」
とてもこれから寝るようには思えない勢いの良さに苦笑する。
カップを片付け、電気を消してイザークもベッドに上がった。
背を向けて丸まる身体を後ろから抱き込むとその肩が少しひんやりしていることに眉を顰める。
「肩が冷えてるじゃないか。次はちゃんと何か羽織って来い」
「…もう来ないよ」
「あっそ」
可愛くない物言いに呆れて、仰向けになろうと腕を持ち上げるとキラは身を反転させて抱き着いてきた。
「嘘だよ…また来ていい?」
「さあてね」
肯定するかわりに抱き返してやると、キラはホッとして力を抜く。
初めは避難所…今はイザークもまた、いつの間にかこの温もりを手放せなくなっていた。
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