雨天決行




昨日から雨が止まない。
演習も中止になって久々の休みを喜んでいたが、外出もできずにキラとディアッカは暇を持て余していた。

「つまんない」
「だな。イザークはどうした?」
「書類整理とか色々やってた」
「真面目なこって。構って貰えなくて淋しいだろ?」
「…別に」
強がっているようだが、沈んだ顔から相当淋しいのだと分かる。
「なら俺と遊ぶか?」
「何して?」
「そうだな〜チェスは飽きたし…キラは何がしたい?」
「外に出たいな」
「それはイザークに絶対駄目だって言われてるんだろ」
「でも本物の雨なんて初めて見るし」


プラント育ちのキラは地球の雨に興味津々で、昨日は雨が降りだして外に飛び出そうとしたキラをイザークが
「風邪をひいたらどうするっ!」
と怒鳴りつけたばかりである。


「ちゃんと傘をさすよ。ディアッカも本物の雲から落ちる雨に触れたくない?」
「全然。鬱陶しいだけだ」
「イザークと同じ事を言うね」
「とにかくそのイザークに俺が怒られるから、それ以外の遊びにしてくれ」
「どうしても?」
縋るように見上げられてディアッカはうっと詰まる。
こんな目で見上げられれば、イザークがキラに甘いのも分かる。

「絶対にイザークに言うなよ!」
「うん!ディアッカ大好き!!」
眩しい笑顔でそう言って、ぎゅうっと首に抱きつかれては一ころだ。



濡れないようにとディアッカはキラに黄色いレインコートを着せて、長靴を履かせた。
大人用なので少しダボダボなところがまた可愛い。
キラは不満そうだがこればかりは譲れなかった。
キラを外に出したあげく、雨に塗らせてしまってイザークにばれたら怖い。

外へ出るとキラは楽しそうに水溜りの上を長靴で歩き回る。
「何がそんなに楽しいんかね」
ディアッカは苦笑しながらもキラが嬉しそうな様子を見て、目を細める。
…が、次の瞬間ツルリとキラは足を滑らせた。
「うわっ!」

パシャン…

尻もちをついてキラは呆然と空を見上げる。
持っていた傘は傍に転げ、レインコートの帽子も外れて頭からびしょ濡れである。
青ざめるディアッカをよそに、キラは何処か楽しそうだ。
何時までも立ちあがろうとしないキラを抱きかかえて慌てて基地へ戻った。

(マズイ!イザークに見つからないようにシャワーを浴びせて…)
頭をフル回転させながら走っていると廊下で一番会いたくない奴に出くわしてしまった。
この地球基地のMSパイロットとイザークが何かを話しながら歩いてきていた。
まだこちらには気付いていないようだ。
クルリと踵を返すとディアッカに抱えられて顔を後ろに向けていたキラがイザークに気付いた。
「あっ!イザーク」
ディアッカはこけそうになった。
恐る恐る顔だけ振り向くと驚いた顔のイザークと目が合った。
そのまま固まってくれと祈るのも虚しく、イザークの顔はまるで般若の如く…。
(…終わった)
ディアッカが打ちひしがれている中、キラは嬉しそうにイザークに話し出す。
「あのね!雨って本当に雲から落ちてきていたよ。空が泣いているみたいで何だか哀しいの。
でね、プラントの雨よりずっと冷たかった。切ないけど何か地球が生きてるって感じで感動!!」
最後ににっこりと笑うキラにディアッカは密かに涙を流し、イザークを顔を引き攣らせる。
イザークの隣にいたパイロットは苦笑している。

イザークは無言で二人に近づいてきた。
やや早足でわざと音を立てるような足音が怒りを語っている。
そして、ディアッカからキラを剥ぎ取り、すれ違い際に低い声でボソリと呟く。
「後でおぼえてろよ」
ピキッと固まるディアッカの肩を地球基地のMSパイロットが同情を込めて叩いた。





イザークは自分の部屋へ戻るなり、浴室にキラを押し込めた。
キラは呑気に鼻歌を歌いながらシャワーを浴びている。
そんな様子にイザークは徐々に冷静さを取り戻してきた。
怒りを押し込めただけで鎮めたわけではない。


上がったキラは椅子に座らされてイザークに髪を乾かしてもらう。
背後で眉を顰めるイザークに気づかず、キラはウトウトし出した。
「どうして外に出たりしたんだ」
「だってイザークは構ってくれないし…僕、怒ってたんだからね」
今怒っているのはこっちだと言わんばかりにタオルでガシガシと髪を拭く。
「痛っ!」
「風邪ひいても俺は知らんぞ」
「大丈夫だよ。プールで泳ぐより濡れてないんだから」
的外れな喩え方だ。
「大体、俺はお前等がサボっていた報告書等を片付けていてだなあ!」
これから説教をしようという時にキラは頭をコクリコクリと揺らしていた。
チッと舌打ちしながら、ソッと抱きかかえてベッドへ運ぶ。
布団を多めに被せて明かりを消し、静かに部屋を出ていく。
まだ片付けなければならない書類が山積みなのだ。
逃げるディアッカを捕まえて、ややこしいものは皆押しつけた。





熱い…寒い…身体の求める欲求の矛盾とズキズキする頭に気持ちが悪くて身動きを取ると、額に冷たい感触がした。
緩々と重たい瞼を持ち上げるとイザークがキラの額に手を当てて覗き込んでいた。
「熱が出てきたな」
「…ごめんなさい。イザークの言う通りだったね」
「もういいから、寝ろ」
「うん…」
再び目を閉じたが、イザークがベッドに上がって来た事にハッとして身を起こす。
「ごめん!部屋に戻るよ」
「そんな身体で歩く気か」
「だってイザークに移したら…」
「俺はそんなやわじゃない。それに仕事はもう片付いた。もし何かあればディアッカを使う」
「…ディアッカを責めないでね。僕がどうしてもって我侭を言ったせいだから」
「これからは我侭は俺だけに言え」
「……もしかしてそれで怒ってた?」
8割方がそうだった。
黙るイザークにキラはクスクス笑い出す。
「病人は早く寝ろ!」
照れ隠しなのか、キラの頭を枕に押しつけて背中を向けて寝る。
キラはその背中にコツンと額を押し付けた。
「イザークが風邪ひいたら僕に看病させてね」

雨はまだ上がりそうにない。
雨が降っている間は癒しの時間。



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