雷の日に
ゴロゴロゴロ…
「何の音?」
「雷だろ」
「これが雷…」
バリバリッ!ドンッッ!!!
一瞬眩い光に包まれ、キラの声は空を引き裂く音にかき消された。
「こりゃあ、近くに落ちたな」
「…」
ディアッカは黙り込むキラに不審に思って顔を覗き込むとキラは青ざめて表情を硬くしていた。
「はは〜ん。キラは雷が怖いんだな」
ニタニタ笑ってからかうようにそう言うと、キラは強気に睨み付けてきた。
「っ!!怖くなんか」
またもや言葉を遮って稲光がすると身体を強張らせる。
そして音が鳴り出すとディアッカの腕に縋り付いてきた。
その一連の可愛い動作にディアッカはクラクラする。
「大丈夫だって」
落ち着くようにソファに腰掛けさせ頭を撫でてやる。
キラは徐々に肩の力を抜いていくが、雷が鳴り出すとまた強張らせる。
「イザークの雷より怖くはないと思うけどな〜」
「……ほお」
キラを笑わせるために言った言葉なのに反応は背後からあった。
誰かは振り返らなくても分かるから振り返ることはできなかった。
しかし、キラの方はホッとしたように顔を上げた。
「イザーク」
「…何をしている」
「キラが」
誤解をされては困ると慌てて言い訳をしようとしたディアッカの口をキラの手が塞ぐ。
「何でもないよ。遊んでただけ」
雷を怖がっていたことを知られたくないらしい。
いつもなら可愛いと思う強がりも今は身の危険を感じるので応えてやれない。
イザークも分かっていながら聞いてくるから質が悪い。
「ディアッカ。バスターの整備で呼ばれてるぞ」
「あぁ、わかったよ」
「僕も手伝うよ」
「お前はこれ」
ディアッカと一緒に立ち上がろうとしたキラの頭に一枚のディスクが乗せられる。
「何これ?」
「解析しろ」
キラはあからさまに嫌そうに眉を寄せる。
「またぁ?!」
「文句を言うな」
「ははっ。頑張れよ」
ディアッカはヒラヒラと手を振って出て行った。
ディスクと睨めっこしているキラにPCを渡すと渋々ながら受け取る。
むくれながらも手早く解析を始め、後ろでイザークが見ているのも忘れてしまったかのように没頭する。
しかし、稲光がしてピタリと手が止まった。
「…イザーク……いるよね?」
「邪魔なら出て行くが」
「いやっ!いていいよ!!」
振り向かずに震えた声でそう言うキラに苦笑する。
きっと泣きそうな顔をしているだろう。
「怖いのか?」
「!そうじゃないけど」
「…ならちょっと待ってろ。飲み物を取ってくる」
「えっ?!僕いらない」
「俺が飲みたいだけだ」
引き留める言葉を探すキラを置いてさっさと部屋を出た。
扉を閉めた瞬間、顔が緩むのを抑えることが出来なかった。
戦いで雷にも引けを取らない爆発音に慣れているはずなのに
…あんなに可愛く怯えるキラを見ているとどうも理性が保ちそうにない。
二人分の飲料を手に、戻っている途中で一際大きな音を立てて雷が落ちた。
基地内の灯りが消える。
近くの配電線に落ちたようだ。
すぐに緊急用の電力が回されるだろう。
「キラ?」
真っ暗な部屋はひんやりとして静まりかえっていた。
何度か呼びかけるが反応がない。
ソファに近づくとキラは身体を抱えて耳を塞いでいた。
小刻みに震える細い肩にそっと手を置くとビクッと大きく跳ねて顔を上げた。
「イザーク〜ッ!!」
勢いよく抱きつかれ手に持っていた飲み物を庇ったこともあって、
咄嗟に支えきれずに二人して後ろに倒れ込んでしまった。
「…おい」
不機嫌に声を掛けるがキラはギュッと抱きついてくるだけである。
呆れて盛大に溜息をつきながらも宥めるように抱き返し髪を梳いてやる。
雷はピークを迎え、けたたましく鳴り響いている。
だが、イザークはこの空間だけは妙に温かく穏やかなものに感じていた。
キラの方はそうではないらしいが。
簡単なことだ。
意識がイザークはキラに、キラは雷に向いているからなのだ。
「キラ」
意識をこちらに向けさせようと耳元で何度も名前を呼ぶ。
額から瞼にキスを落としていくと、固く瞑っていた目を開いていく。
不安そうに瞳を揺らすキラに微笑んで唇に軽くキスを落とすと、キラは顔を真っ赤にして身を起こそうとした。
その逃げる身体を引き寄せて、さっきとは逆に押し倒すとキラは唖然と見上げてくる。
「怖い?」
何に対してなのか。
ただキラはゆっくりと首を横に振った。
雷が通り過ぎた頃には乱れた呼吸も静まりつつあった。
気怠げに寝転がるキラの柔らかな髪を絡め取りながら、イザークは可笑しそうに話し出す。
「そういえば、キラの故郷の日本という所では、大昔は雷が鳴るとこうして身体を合わせたらしいな」
キラは眠そうにゆるゆると視線だけを向ける。
「何で?」
「お前みたいに怖かったからだろ」
「僕……雷嫌い」
キラははぁと溜息をついて瞼を閉じた。
「すぐに嫌でも好きになるさ」
意識が落ちる前に楽しそうな声が聞こえた。
稲光に照らされたイザークがとても綺麗で見とれていたなんて絶対に言ってやらない。
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