with ラクス
3月3日は女の子にとって特別な日。
早くから雛人形を出して当日にはあられや甘酒も用意して、家族と祝うはずだった。
しかし父親は会社の社長なんてしているものだから、急用が入って取り止めに。
3日後の日曜日にしようという父に、
「ひな人形は早くしまわないとヨメにいきおくれてしまうと言いますから」
と断るとあからさまに動揺していた。
おとうさま。
わたくしもいつまでも子どもではなくてよ?
ちゃんとしょうらいのこともかんがえているのですから。
十代でお金もちでかっこいい男せいとけっこんしますの。
この間おとうさまがこんやくしゃにとつれていらしたアスランさまはごうかくてんですけれど少しくらいです。
まあ社会でもまれてせいちょうされることをきたいしますわ。
そして海のそばの白いおうちにすみますの。はたち前にはふたごの子どもを………
はぁ、と溜め息をついて庭に出る。
この日の為に母が買ってくれた紅の着物は青い空と緑の芝生の上でよく映える。
着ている女の子の顔は沈んでいたが。
年に似合わない憂いを含んだ顔は女優気質を彷彿とさせるが、本人はあくまで「歌姫」志望。
結い上げていた自慢の桃色の長い髪を解いて広い庭を小さく歌いながらなんとはなしに歩く。
雛あられを(握り潰して)蒔くと小鳥が集まってきた。
ガサッ
ふと垣根が揺れた。
ラクスはびっくりして後退る。
ひょこんと現れた人影に叫び声をあげなかったのは、自分より少し背が低かったのとその可愛らしい顔にあった。
菫色の大きな瞳にじっと見つめられてラクスの鼓動が高まる。
「おひめさまだ〜」
ほわんとした柔らかな微笑みにキュンと胸が締め付けられた。
「わたくしはラクスですわ。あなたは?」
「ラスク?」
「…それはおかしですわ。よくまちがえられますけれど。ラ・ク・ス」
「ラクシュ!」
少し違うような気がしたがまあいい。
「それであなたのお名まえは?」
「キラ!」
にっこり笑われてラクスも微笑みかえす。
ぽっと心が温まるのを感じた。
「それでキラさまはどうしてここに?」
「あのこね。キラのなの」
小さな指が指し示したのはあられで集まった小鳥たち。
その中に一羽ロボットの小鳥が混ざっていた。
トリィ
変な鳴き声、と言いそうになったのをグッと飲み込む。
「トリィ!」
キラが呼ぶとロボットの小鳥はキラの頭にちょこんと乗った。
「だめだよ。人のおうちにいっちゃ。アスランがおこるんだから」
「まあ!キラさまはアスランさまのおともだちですの?」
「うん。このこもアスランがつくったの。トリィっていうんだって」
アスランさまのセンスはようちゅういですわ。
ブツブツ言っているラクスを不思議そうにキラは首を傾げた。
トリィもまた合わせて首を傾げた。
一々の動作が可愛らしくてラクスはキラが気に入ってしまった。
「キラさま。おひまさまがありますの。ぜひあがってください」
キラの返事を待たずに手を引いて中へ連れこむ。
キラは戸惑いながらもおとなしくついていった。
しかし雛人形のある部屋に入るなりキラは泣き出してしまった。
「どうしましたの?ほらこんなにきれい…」
「っこわいよぅ」
白い顔に切長の目は確かに見る者によっては恐怖かもしれない。
「でもほらこんなにきれい」
「…ふぇっ…ラスクの…ほうがきれい…だよぅ」
大粒の涙を溢しながらそう言うキラにラクスは当然落ちた。
名前が間違っていようが、
自分より可愛かろうが…
ラクスはキラを運命の人と決めた。
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