with くされ縁
イザークは気むずかしい。
すぐおこるし、しんけーしつだし、人づかいがあらい。
それなのになぜいつもいっしょにいるのかと聞かれたらこまってしまう。
まあ、きらいじゃないし?
「キラキラ〜!」
突然元気な声がしたかと思うと隣を歩いていたイザークが前のめりになった。
その腰に小さな子供をくっつけて。
兄弟の誰かとイザークを間違えたのだろうか。
自分より小さいとはいえ、人に触れられる事を好まないイザークだ。
怒るかとディアッカは慌てた。
「…なんだ。またお前か」
しかしイザークは怒るでもなく、むしろ優しい表情で子供を見下ろした。
そんな顔を見たことも向けられた事もないディアッカは唖然とした。
「また迷子か?」
「ちがうもん。キラねひとりでおつかいなの!」
自信満々に上げられた顔にディアッカは目を見張る。
大きく溢れそうな紫の瞳。
ふっくら柔らかそうな頬は興奮しているせいかほんのり赤い。
可愛い。
何の抵抗もなくそう思う。
キラは瞳を輝かせてイザークを見上げる。
何処か期待を含んだ顔である。
ディアッカにはそれが「褒めて褒めて」と語っているのがありありと分かる。
イザークには分からないだろうなと思っていた所、予想に反してイザークはキラの形の良い頭を撫でた。
「えらいな」
キラはきゃあと嬉しそうに声を上げた。
ディアッカは夢でも見てるのかと頬をつねる。
「なに馬鹿なことをしている」
目の端に捉えていたイザークの冷たい一言。
そうそうこれがイザークだ。
ディアッカは哀しいかな安堵した。
イザークに続いてディアッカの存在に気付いたキラは少し怯えたように瞳を揺らし、イザークの後ろに隠れてしまった。
「キラ。これはディアッカだ」
『これ』よばわりかよ!とは怖いので内心で突っ込む。
「ディ…?キラキラのおともだち?」
「…おれはキラキラじゃない。イザークだ。こいつは…まあともだちだ」
『友達』という所を鼻で笑われた。
…本当になぜおれはイザークといっしょにいるのだろう。
「よろしく〜」
明るく挨拶するもキラはまだイザークの後ろから出てこない。
相当人見知りが激しいらしい。
人を泣かせる事の多いイザークとどうやって知り合ったのか気になる所だ。
「なんのおつかいだ?」
「んとね。モモかうの。パパびょーきだから」
「?」
「つまりパパがかぜかなんかひいてねこんでるとか?
モモが食べたいといってるからこの子がかわりにかってきてやるとかいうんじゃねえの」
イザークが理解不能というように眉間に皺を寄せるので、
ディアッカが横から口を出すとキラはおずおずと小さな頭をコクンと下げた。
イザークは少し面白くなさそうだ。
「すごいなー」
ディアッカが褒めるとキラは嬉しそうに笑った。
あぁ本当に可愛い。
自分達もこれくらいの時、こんなに素直な反応をしただろうか。
実際は1つしか違わないと知るのは大分後になってからである。
「いってきまーす」
可愛く手を振って歩きだすキラ。
それをイザークは心配そうに見送る。
足取りがあぶなっかしい。
と思っていたら、早速小石につまずく。
とっさにディアッカがそのフードを掴んだ為に転ばずにすんだ。
その時ディアッカは後ろから「あ!」という声を聞き取った。
「キラ!」
怒鳴ったのはイザーク。
説教を始めたイザークにキラを任せディアッカは振り返る。
そこには本屋の前で立ち読みしている男の姿しかなかった。
黒いロングコートに黒いサングラスと大きめの白いマスク。
目深に被った黒い帽子からはブロンドの髪がはみ出ている。
本当に苦しそうに咳を繰り返しマスクをしていなかったら端迷惑なことだ。
怪しい事この上ない男を見てディアッカはピンときた。
ディアッカが近付くと男は雑誌に熱中している振りをする。
「おっさん、キラの父おやだろ?」
「……おっさんじゃない」
声がガラガラだ。相当ヤバイのではないだろうか。
「なあ、かえったほうがよくない?キラならおれたちがちゃんとつれていくからさ」
「心配で寝てらんないんだ」
「そりゃわかるけど、信じてまつのもおやじゃねえの?」
「……君は随分しっかりしてるな」
そういえばあの子も…と思い出すそぶりをした。
そして覚悟を決めたようにディアッカに向き合った。
「頼めるか」
「まかせとけって!」
ディアッカは胸を張る。
念のためにと家の電話番号が書かれたメモを手渡された。
ヨロヨロと帰っていく背を見てディアッカはふと自分の父親を思い浮かべた。
「ひとりでいくの!」
「だめだ。あぶない」
「やあ〜」
イザーク達の元へ戻るとキラは悔し涙をにじませながらイザークに抵抗していた。
やれやれと肩をすくめてディアッカは間に入る。
「キラ。おれもかいものいきたいんだ」
「ひとりでいくの〜」
「でもこのあたりイザークもおれもよく分からないからキラがつれていってくれないか?」
「う?キラが?」
「そう、キラがおれたちをつれてって」
ディアッカが手を出すとキラは小さな小さな手を乗せた。
「いいよ」
こっち、と手を引くキラにディアッカは苦笑しながら着いていく。
言い方を変えただけということに気付かれずホッとする。
イザークの方が納得いかないという顔をしている。
初めての優越感。
だけど後が怖いので程々にしておこう。
無事に桃が買えたキラ。
実は買った物より貰った物の方が多かった。
途中でキラに声をかける人の多さにディアッカ達は閉口した。
「パパとママはどうしたの?」
「まあ、おつかい?小さいのに偉いわね」等々
このあたりでも有名な子供のようだ。
巻き込まれるようにディアッカ達もお菓子を沢山貰ってしまった。
多くの人に褒められてはしゃぎすぎたのか、キラは帰る頃には歩きながらウトウトし出した。
「キラ。危ないから起きろ」
「…ぅん」
帰りではイザークの手を引いていたキラはもう逆転している。
イザークに引かれるままフラフラ歩く。
目をコシコシ擦りながら必死に眠気と戦う様は何とも愛らしい。
しかしここで寝られてはディアッカ達が困るのだ。
イザークもキラの家までは知らないというのだから。
「あと5ふん…」
「「は?」」
謎の言葉を残したままキラの足は完全に止まってしまった。
「あー…たぶんだれかのマネだろ」
恐らくはあのおっさん、いや父親の。
朝起きれない者がよく使うお決まりの言葉である。
立ったまま器用に眠るキラはなかなかの大物だ。
「キラ。ほらおんぶしてやるから」
体格的にこの役目は自分だろうとディアッカはしゃがむ。
キラはイザークに支えられながらその背に乗った。
眠っているせいか想像していたより重い。
ふわりと太陽の匂いがした。
「どうするんだ?」
戸惑うイザークなんて初めて見た。
「おれのポケットみて。キラの家のでんわばんごうがかいてある」
「…なんでおまえがそんなものもっている」
「うん、まあちょっとね」
キラを窺いながら言葉を濁すとイザークは気に入らなかったようで不機嫌さを露にした。
肩を怒らせて電話を探しにイザークが離れると、キラは一瞬目を冷ました。
寝惚け眼で父親と同じ髪の色を見て勘違いした。
「パパ…」
キュウと抱きついてくるキラに苦笑しながらもディアッカは優しく応えた。
「よくがんばったな」
ブラウザの戻るをご利用下さい。